山口 正司
チャコちゃんは午前中歯医者に行った。
「歯の根の一部が折れているので歯を抜いてブリッジにしなけれ ばならない。」
と半ベソで帰ってきた。「もう一度別の歯医者で聞いてみたら。」
と言うが
「お医者さんを裏切る事は出来ない。航平が生まれたんだから 歯が一本位なくなったっていい。」
とけんかになった。抜いてもらう事が最もよいかどうか確かめて気持ち良く抜いても らうんだと納得してすぐ近くの別のお医者さんに行った。
しばらくして歯医者の前から
「抜かなくていいみたい。」
と電話があった。歯医者さんの旦那さんが外科医で連休あけに診察して場合によって 膿みを出す手術をする。歯は二つに切断して折れている部分をとる。
前にかかった歯医者の診断は必ずしも間違いとは言えないが、歯 は十分にしっかりしていて綺麗で抜かないで直る可能性は高い。と いうことだった。
チャコちゃんの歯は相変わらず痛い。鎮痛剤はなくなって薬局で 買った。抗生物質は引き続き飲んでいる。腫れはだいぶひいてきた。
薬を服用しているからこのところ粉ミルクになっている。ところ が航平が粉ミルクを拒否した。体を震わせながら泣いておっぱいを 要求する。
つまり粉ミルクを与えても飲まず、おっぱいにするとのみ出す。 薬のことで心配だがチャコちゃんはまんざらでもない。
夕方航平は公園デビューした。駿ちゃんから回ってきてチャコ ちゃんが縫った布団を付けたA型バギーに乗って駒沢公園内のぶた こうえんにでかけた。
すれ違うベビーに気を取られながら、泣きはしないかとおそる おそる出発した。航平はご機嫌上々で強い風のなかにこにこして いた。チャコちゃんは薬こそ飲んでいるものの歯の痛みはその時 はなくて久しぶりの笑顔だった。
ぶたこうえんに着いたが航平は小さすぎて友達もできる訳もなく そそくさと一周して帰宅した。帰りも目をきらきらさせながらいい 顔だった。
このところ寝るか泣くかの生活だったが晴れたら外にも助けを求 めよう。
天気は晴れてチャコちゃんの歯の具合もだいぶいいのでお宮参 りに行こうということになった。
公園に行ったときは人のあまり通らない道を通ったが、駒留八 幡神社に行くには国道246を渡らなければならない。マクドナル ドの前を通り京樽の前を通りファミリーマートの前を通る間に後 ろから大きい犬が駆けてきたり前から手にたばこをもっている人 が接近したりと今までに気が付かない危険が目に付く。車椅子を 押すときとはまた違う。
航平はお義父さんからもらった新品のよそいきのつなぎにテニ スウェアーでパリパリ、チャコちゃんもおめかしをして僕はサマー セーターの特上のいでたちで神社に着いた。
ほとんど人の居ない神社に三人でお賽銭をあげて記念撮影をして 途中花屋で菖蒲湯の為の菖蒲を買って帰ってきた。航平はその間 ずっとすやすや寝ていた。家に入るとすぐに泣き出した。外は気持 ちがいいようだ。
朝方雨が降っていたが昼になって天気がよくなった。お義父さんは 結婚披露宴に行くと聞いていたが晴れて良かった。
一時に内山家から電話があって二時に家族揃って来た。昨日貴浩君 とまあ君が来たそうだ。まあ君は東北に無事着任してゴールデンウィーク で東京に里帰りした。智君はこの後ダイエーでファミコンソフトを 買って貰うらしい。そうか今日は子供の日だ。
四時過ぎ家族三人で西友に買い物に出た。外に出ればご機嫌になる ので帰りは寄り道をしてバギーを押した。家に着く直前に航平が泣き 出したので抱きかかえて小走りで家に入った。後からチャコちゃんが バギーと買い物袋を抱きかかえながら半べそで追い駈けてきた。
けいこばちゃんから一時頃電話があった。
「家の近所のCASAでお昼に車でうどんを食べに来たのだけれど パパが今から行こうよって言うけどどうかしら。私なんかお化粧も してないんだけど。」二時過ぎに小沢さんとたかし君との三人で来た。航平はちょうど わんわん泣いていたがけいこばちゃんが抱くとぴたりと泣きやんだ。
「家も二人を育てたんだもんな」と小沢さんが言う。
たかし君達はもう社会人。たくさん愛情を受けて立派に育って来 たことを思い返すとそれは一つの人生史だ。夕方バギーを押して三人で買い物に出た。航平はやはり外が好きだ。
連休があけてチャコちゃんは歯医者で歯ぐきの切開手術を行った。 何針か縫った。術後の経過は良くてすっきりとした様子だ。前の歯 医者に明日の診察とその後の治療をキャンセルする旨の電話をした。
ニューヨークのロングアイランドのかずこさんから電話があった。 二年ぶりで近況を話したり聞いたりした。かずこさんは相変わらず 元気そうだった。
ニューヨークは最近活況が戻ってきて空いている貸ビルも少なく なった。ゴールデンウィークは日本人がたくさん来ていた。市長が 替わってからは多くのお巡りさんが始終パトロールをして安全な雰 囲気になった。
「ガーデイアンエンゼルスがいいんじゃない?」
と言ったら
「テレビじゃ見たことはあるけれど地下鉄で見た事は一度もない。」
と言っていた。そう言えば見たことはない。
国際電話が四時間になった。アメリカはやはり豊かだ。
チャコちゃんの歯は大分いい。薬はまだ抗生物質、鎮痛剤、胃薬を 飲んでいる。母乳も時々与えるが薬のために多くは粉ミルクになって いる。
航平は声がかすれて泣き声がでなくなった。原因はよく分からない。 声の他は元気で活発だ。母子児童相談センターに電話で聞いて見ると もう一日続くようなら医者に見て貰った方がいいという助言だった。
原因としては鼻が十分通ってないので口で息をしている、咽頭炎、 風邪、泣きすぎなどが考えられる。お風呂に入れるのがちょっと 気にかかる。
航平の声のかすれは少なくなった。チャコちゃんは薬の副作用のせ いか寒気があるらしい。昼どきは随分と激しい雨足だった。
買い物の帰りに向かい隣の奥さんとすれちがった。
「一緒に暮らしていた方は妹さんと思っていました。元気そうな赤 ちゃんで良かったですね。いつも買い物するんですか。うちは全然や らないんですよ。」
マルエツの袋からはみでた大根の葉っぱは今日に限って50センチほ どあった。世田谷目黒連続放火事件の容疑者が逮捕された。チャコちゃんが妊娠 中家の隣まで燃えた。
屋上に植えてあった金魚草とムスカリがからすに食べられた上プラ ンターがひっくり返された。春には今年楽しみにしていたチューリップ が15個の内14個食べられてしまった。屋上の忘れな草と金魚草を下 の花壇に植え替えた。
からすが向かいのもの干しにとまってこちらをじっと見ているとき がある。航平の顔を覚えられたくはない。
チャコちゃんは歯医者に行って薬が終わり母乳に戻った。
チャコちゃんが航平をだっこひもでだっこしてぶた公園に三人で 散歩に行った。出かける前はしくしく泣いていたのに外に出ると機 嫌が良い。歩みを止めて立ち止まるとしくしく泣き出しそうになる。
公園からは競技を終えて帰ってくるたくさんの高校生と擦れ違った。 「ちいさあーい。」と言われてこれでも随分大きくなったのに。
一才位のお兄さんがすべり台を上手に降りていた。この公園は作り は危険に見えるが子供はたくさん遊んでいる。
ぶた公園の帰り道犬の放し飼いは怖かった。ローラーブレードをす る人は右や左から飛んでくる。
あしたはみっちゃんが来るからサンドイッチ用のサラダ菜とハムを 買ってきた。
みっちゃんと娘の映理ちゃんが来た。航平と二度目の対面。病院 で会った頃と比べて随分大きくなったと思う。
映理ちゃんはスポーツが得意でまんがのクラブに入っている。子 供の頃から画が上手だった。お母さんのみっちゃんもリレーの選手 でスポーツが得意だったとチャコちゃんは言う。親子でもうそろそ ろ友達のような関係に見える。
航平がこれからみっちゃん親子位までに成長するのにどんなこと があるだろう。
自動車修理工場に車の修理を適当に簡単で安価に出来ないか相談 に行った。後ろのタイヤの上から窓枠の横の部分とトランクの横全 体を切断して、修復した後溶接してはめ込むのでちょっとたたきだ して直す訳にはいかない言う。
かえりすがら八雲のトヨタ中古車センターに立ち寄ってチェイサー を見た。そして駒沢日産中古車センターに行った。ちょっと乗りま せんかの言葉で去年のサニーに乗った。快適だった。ベルリンで 乗ったBMW316と変らないと思った。
「家の駐車場は狭いから。」
と言うと
「じゃ行ってみましょう。」
と家まで乗った。チャコちゃんは何事かを理解できずびっくりして外に出てきた。チャコちゃんは結婚前 にサニーに乗っていたのでこれでいいよと言う。このままここにお いていって下さいとのどまで出かかった。しばらくして家に戻ったがあくまで理念は単位価格の最大効用だ。 今も車は動く。自分と車とチャコちゃんを知って購入までを楽しむぞ。
午前中保健婦の外崎さんが巡回訪問に来た。航平の体重を計った。 衣服を着たままで6.2キロある。衣服を600グラムと推定しておお よそ5.5キロで2か月の標準体重だ。チャコちゃんは自分が普通の中 の普通なので航平が標準であることにはとても嬉しい。
外崎さんはてきぱきと指示した。外気浴をする。はなくそは綿棒 を使わずこよりにする。風呂上がりにはローションは使ってもオリー ブオイルはいけない。顔の湿疹は日に何回も拭いて清潔にする。神 経質にならない。子供を見て本や情報は後にする。じゅうたんの上 のはいはいは汚くない。土の上ではいはいする。順調に育っている ので心配ない、ということだった。
夕方秋葉原に行って石丸電気でエアコンを購入した。東芝製2.5kw 工事費込で10万円。当日追加工事料金が何千円かあるかもしれない。 チップみたいだ。
購入お礼に時計付きキッチンタイマーにクリップが付いていて磁石 で冷蔵庫に付けたり置き時計にもなるものをくれた。頂いたのは有難 いが、時計に使いずらくタイマーとして使いにくい。そのクリップに はさむものはない。はさめば掛け時計は落っこちる。デザインは悪い。 ポリシーがなくて何でもできるが使いにくいのはうちのウインドウズ 3.1パソコンのようだ。マックのような本物が欲しい。
ウインドウズ95パソコンはシェアが大きいので買わなければならな い。しかし買いたい気持ちにならなかった。MS-DOS、ウインドウズ 3.0、ウィンドウズ3.1と三回続けて不具合が多かったので四回目は厭 だ。
自動車税の納付書が来ているが新しい自動車を購入するのに支払っ ておいた方がよいかを問い合わせた。支払って月割り分の還付を受け るか、支払わずに督促状を受け月割り分の請求書に受けて納付をする かの何れからしい。
重量税については戻らないらしい。車検の翌日に廃車になっても既 に支払った二年分あるいは三年分は戻らないそうだ。
不満に思って大蔵省に聞いた。理由はこうだ。自動車税は保有を課 税根拠としているので保有が中断されれば課税根拠を失うので残り期 間分は還付される。ところが重量税については車検残存期間における 通行権の取得の対価が課税根拠なので途中で保有を中断しても残存期 間分の返還はない。
聞いてみると論理的で分かりやすい説明だ。しかし税は私たちのた めに使われる重要な財源だ。田中角栄が自動車の重さにもかけろと言っ て成立したというが、似たような税を二度に分けることでどれだけ無駄 な書類や手間や仕事が増えるのだろう。
父の18年目の命日なので妹が智君と二人で来た。智君は先週の日 曜にダイエーでスーパーマリオのロールプレイイングゲームを買って 貰ったそうだ。
ロールプレイイングを楽しむとは三年生になって智君も成長した。 うちに来てマックの顔を見ないことはない。
航平の顔に湿疹が出来ている。原因はわからない。時期などから 推測されるのは、大人用の入浴剤、チャコちゃんの服用した抗生物 質、外壁に付いている正体不明の赤いダニのような虫がふとんにつ いた、顔を洗う石鹸などだろうか。
医院に行くのは乳幼児医療制度もあって費用もかからず手軽だが、 医薬分業ではないので恐らく薬を提供されるだろう。診察して貰っ てアドバイスだけを聞きたいのだが事実上出来ない。副作用に対す る不安の方が大きくて医院に行く気持ちが萎えてしまう。しばらく 様子を見る。
チャコちゃんの歯は再び腫れて膿が出てきている。痛そうで歯を 食いしばっている。三日間抗生物質をまた服用しなければならない。
沢田先生が渋谷の美容院への帰りに立ち寄った。次男の悟くんは 12月1日に結婚式をあげるそうだ。チャコちゃんから見るとお母さ ん鍵ちょうだいと言っていた子が結婚なんて追いつかれたようで信 じられない。
航平はプロの手にかかってなかなかご機嫌だった。チャコちゃん は薬を飲んでいることと歯が腫れていることで十分ではない。お風 呂の入浴剤を使わないようにしてみて航平の湿疹は幾分かよくなっ たように見える。
初めて航平は電車に乗ってデパートというところに行った。準備 に手間取った。何を持って行くのか分からない。おむつは二つ、し かし取り替えて取り替える時にちびりうんちをする場合もあるから 三つ。ひっかかる場合を考えて着替えを一揃い。粉ミルクをもって お湯を持ってガーゼとタオル。揃えてみたら三時間程の外出だから 多すぎるのでおむつは二つに変更。出てすぐうんちでユーターン。 戻り開いて見たらおならだけ。
駅について電車に乗って無事三駅先の二子玉川駅に到着した。な ぜ駅におむつを換える施設がないんだろうなどという疑問は今まで 考えたこともなかった。おむつ換えの施設をたくさん作ろう。
玉川高島屋に入る。さすがに客商売は違う。ベビールームは安心 感を与える。ベビーベッドが八つ、椅子が八脚、お湯とおむつとこ ども用果汁の自動販売機と大きなごみ箱、身長計と体重計があって 懸案だった男も自由に使える。これならいくらでもいられる。ベビー カーは全部貸出中だった。
うきうきと商品を見て回ったが確認だけで買い物はできなかった。 後日僕だけであらためて行く。
浩子さんと駿ちゃん、みーちゃんが来た。みーちゃんは今日から 英語の塾に行く。四才の女の子が机に座って日本人講師から40分 英語を学ぶが本人は楽しみでたまらないらしくて
「英語に行くからそんなに遊んでられないの。」
と言っている。
塾は否定的に言われるが子供の中にしっかりと入っている。夕方トヨタにカローラを見に行って試乗した。スカイラインに 18年乗ってますと言うと
「あの角を入ったところのお宅ですね。」
と言われた。 カローラはいい車だった。申し分なく素晴しいと思うが、CMやち またに聞こえてくる評価は廉価のイメージが強すぎて選びにくい。その後三越エレガンスにマツダを見に行くとシトロエンしか置 いてない。マツダの業績が悪いはずだ。仏車はパリで借りたルノー サンクがとんでもなく乗りにくかったり、乗ったタクシーが日産 プリメーラで乗り手から愛されていた経験と日本では価格が高い ので購入の対象にはならない。高級な飾り方と見慣れない内装や 作りは魅力的に見える。
高いものは高級に飾り、安いものを親しみ易く見せるというよ りはドトールコーヒーのように安いものを高級に演出することは 出来ないのだろうか。
帰りに八百屋で野菜と果物を買って帰った。
航平の内祝いの品を注文するのに玉川高島屋に行った。航平を祝っ てくれたお礼がやっと一部出来るところまでこぎつけた。選ぶ途中で 閉店の時間になって全部を選びきれなかった。
アメリカではベビーシャワーと言って自分の指定した店に希望の品 を登録して送り主がその中から選ぶこともあってそれは合理的だ。日 本の贈答習慣は金額が大きいがそれは祝いが心尽くしと言うよりは商 戦の道具として利用されていることもある。贈答の際のいくつかのし きたりは商戦上の道具として利用されている。
贈答習慣は物理的には真の豊かさへの妨げになるが精神的に果たす 充足感は大きくてやはり心に拠り所を求めたいのだろうか。
精神的充足感がデパートのマインドコントロールでないことを祈る。
航平の顔の湿疹は良くなっているようでなかなか完治しない。むし ろ悪いようにも見える。
鼻がつまるのは随分良くなっている。チャコちゃんが掃除をして僕 の鼻の具合も良くて久しぶりに青葉の香を感じる。僕の鼻はずっと敏 感過ぎるくらいで電車の中などは臭いで気持ちが悪くなる位だった。 しかし慢性の花粉症で今は臭覚がほとんど無くなってしまった。臭覚 は一旦全部が失われると再び再生しない。どんな厭な臭いでも臭いを 感じることは自分にとっては嬉しい。
チャコちゃんは歯医者で再び切開手術を行った。リカちゃんは訪問 する予定だったが雨が降ってきたのでキャンセルするという連絡があっ た。
航平の首は大分すわってきたように見える。目も見えている様子が ある。いないいないばあに時々反応するように見える。メリーゴーラ ンドのオルゴールに合わせて手をクロールのように回し、足を空中に 持ち上げながら走るようにぐるぐると動かす。オルゴールを止めると 手足も止まる。
航平の首筋にぽつぽつと赤い湿疹が少し見えた。チャコちゃんに 話すと
「あんまり神経質にならないでよ。アトピーって決めないで。」
と怒った。湿疹の原因が飲んでいる抗生物質に有るのではないかと いう漠然としたチャコちゃん自身の不安を衝いたのかもしれない。これはもう限界だ。近所の石氏皮膚科医院に受診できるか電話で 聞いて、チャコちゃんが航平を連れて行った。
診断の結果は
「脂臘性湿疹にほぼ間違いない。新生児は代謝が活発なのでおきる 一般的な皮膚炎。抗生物質は原因ではない。アトピーかどうかの診 察は今はできない。生後三ヶ月の時点で再び調べる。よく顔を洗っ て手袋を付けているのは良い。処方する薬をつける。一週間後にも う一度来院。」病名と原因が分かってチャコちゃんも僕もすっきりとした。薬を 塗ってしばらくすると航平のほっぺたは目に見えてすべすべになっ た。
午後家族全員で再び玉川高島屋に行った。これで内祝いの品々を 全部送った。航平は高島屋で二回うんちをした。おっぱいも二回飲 んだ。しかし親の仕事によく付き合った。前回はいい匂いで泣き出 した地下の食品売場も売り子のおばさんから手袋してるねーとあや されながら泣かなかった。
しかし高島屋は値段が高い。チャコちゃんがここは高品屋だとい うのがおかしかった。普段はほとんど買い物もしないのに随分と買っ た。帰り際に自分達の分も何か買おうと言って中華総菜を求めて帰っ てきた。
昨日高島屋で航平の物を何も買えなかったので散歩と見学がてら に五反田TOCの赤ちゃん本舗に行った。トイザラスが大店法で告 訴していたが店内は改装されて以前にもまして小売店風になってい た。
入口に授乳室があって店の中央には子供が遊ぶ大きなスペースが 出来ていた。チャコちゃんに言わせると高島屋のベビールームは端っ こに追いやられて埃っぽくて余り誉められない。
赤ちゃん本舗は値段が安いので大きいカートで安心して購入した。 脱脂綿、肌着洗剤、衛生綿、粉ミルク、石鹸、沐浴剤、シャンプー、 洋服、ついでに夏の空気でふくらむプールまで買った。
自動車は大きな凹み後があるので恥ずかしかったが昨日、今日と 出てみると何となく慣れてもいる。とにかく走ることは便利だ。
5月27日 月 晴れ 嗅覚 外出してはっきりと気が付いたのだが自分に嗅覚が戻っている。 電車で隣の人の仁丹の匂い、秋葉原の神田川の匂い、居酒屋のカ レーの匂い、ケーキ屋の甘い匂いが歩く度に分かる。厭な匂いも いい匂いも昔感じた匂いが戻っている。
鼻の具合がとても良い。十五年前に初めて花粉症になってから 失った匂いを感じとれる。
航平の誕生で掃除をしたり、換気をしたり、毎日風呂に入った りしてなのかあるいは別の原因かで鼻が良くなった。今は漢方薬 を服用していない。薬を服用せずに嗅覚が戻っている。
航平の湿疹はほとんど直った。先週の金曜日に石氏医院に行っ たその日の夜にはもうだいぶ良くなっていた。翌日にはやけどの 台のようになっていた部分もほとんど消えた。
薬がとても効く。新しくポチッと出来ても薬をつけるとすぐに 直る。外見上に湿疹の痕はなくなったが、少し痒いように自分の 顔を胸にこすりつけることと、新しくぽつりぽつりと出来てくる 湿疹がある。
お義父さんが来る。
「少し見ない間にも随分大きくなった。昔仕事で二ヶ月ごとにお 客さんのお宅に行くとその度に子供が大きくなっていた。」
と言う。チャコちゃんにこのところマタニティブルーを感じる日がある。 昨日の夜はほんのささいなことで急に怒り出して
「そんなホームページに書くのなんか 止めてもっとうちのことを手伝ってよ。」
と激しく興奮して泣き叫んだ。僕は手で自分の頭を抑えて後ろを 向いて寝たが本当にホームページを止めようかと思った。「きのうはごめんね。」 ひさこより
航平の歯が見えてきた。歯茎の中に薄く透けて前歯が二本見え る。
夕方池袋のトヨタアムラックスに行った。チャコちゃんはそこ で自動車買ってきてねという。そこに沢山展示してあるどの一台 でも気に入れば買って来ようという意気込みで出た。
池袋は青春時代の思い出の土地だ。高校の頃友人と一緒に初め てジローにピザを食べに行った。西武やパルコの作りは幼稚園の 頃の丸物デパートと比べてそれほどは変わっていない。西武はヘ リポートとして利用されていた。
東口のサンシャインに行く通りは青葉が真っ盛りで、そこを歩 く若者は派手な服装で圧倒されそうだった。
アムラックスではこれが好きだという車は分からなかった。イ ンターネットに自由に接続出来る端末が7台設置されていた。自 分のアドレスを忘れてしまったので平尾さんを呼び出し、そこか らあけんさんを呼んで自分を出した。
端末をさわってみると動きはかくかくと遅くて声を出そうとす ると画面の一部が消えたりする。あらためてうちのマックはいい よなあと思った。
午後石氏皮膚科医院に一週間目の診察の為にチャコちゃんは航平 を連れて行った。
先生は「脂臘性湿疹に間違いはなく、もうすっかり治った。アト ピーである可能性は今のところはない。ただ、皮膚は過敏だ。新た に背中に出来た湿疹はあせもだ。薬を処方する。」 という診察だった。これで航平は無罪放免になった。